米国医療法案はやはり成立するのか

 米国の大統領選は終わってしまえばあっけないものでした。得票総数ではクリントンが勝っているにもかかわらず選挙人獲得数でトランプの勝ちという結果です

 米国の勝者総取り方式という制度の問題という話もありますが、日本の小選挙区制だって得票数を国全体で集計した割合と獲得議席数に大きな開きが生じるわけで、ルールに従うのが民主主義の原則だから結果は結果です。しかし、こと医療機器に関しては、大統領選と同時に行われた上下両院議会選挙の方が直接の影響があります。

 今回、上下両院とも共和党が多数を占めることとなりましたが、この結果は21世紀治療法(21st century cures act)を、あと一ヶ月でクリスマス休暇に入る前に成立させてしまおうという話が、俄然現実味を帯びてきたことになると思われます。今回非改選だった議員は2018年の選挙を戦うわけですが、その人たちのなかで、これまで議案に反対していた人たちが賛成に回る可能性が大きくなったと思われます。

 先に述べたとおりこの法案の上院案が文書で未だ示されていないのですが、もしも、19に分割したもので既に審議済みだから改めて審議することもないと云うならば、法案が出来次第形だけの審議で成立ということもあるでしょう。議会がそんないい加減な行動をとるならば、国民の議会に対する信頼は失われることになるということは、日本の例が示す通りです。

 しかしもう既に21世紀治療法は遅かれ早かれ間もなく成立という見込みに立って、近日中に示されるであろう法案をウオッチするしかありません。繰り返し懸念点を述べますと、医療機器の安全性の検証も医薬品の副作用の検証もほんの少しで済ませて早く市場に出し、生死に関わる医療機器不具合や医薬品の重篤な副作用が出たら、その時に対策を考えればよいという空恐ろしい内容が含まれている法案なのだと云うことです。そしてそれらが日本にも入ってくる恐れがあるという事です。  法案の行方を、規制当局と医療機器産業界の双方で丁寧に追跡し、万一成立の場合、その波及効果を見極め、対策を慎重に練ることがのぞまれます。

 重い話題が続いて済みません。

米国の医療法案の成立見通し立たず・・・やれやれ・・・

 昨年6月米国連邦議会(下院)が、21世紀治療法(21st century cures act)というとてつもなく幅の広い法案を通過させ、上院に法案送付しました。

 その法案とは、医療機器はもちろんのこと、医薬品も難病の新しい治療法も、その開発を促進し患者に福音を・・・といううたい文句で、米国医療研究の総本山NIH(NationalHealth Institute)の研究費を大幅に増額せよ!という項目などは米国民にも分かりやすい話かも知れませんが、よくよく読んで見ると、新しい医療機器や医薬品を開発したときの製造販売承認を大幅に簡単にして必要とする患者に一日も早く届けるべし・・・と主張するものです。

 それはとりもなおさず、医療機器の安全性の検証も、医薬品の副作用の検証もほんの少しで良ろしい、早く市場に出して生死に関わる不具合や重篤な副作用が出たらその時に対策を考えればよいという、空恐ろしい法案なのです。

 安全性が十分に確かめられていない医療機器が新製品としてどんどん出回る世の中は気持ちが悪いし、TPPが成立すればそんなものが日本に入ってくるのも防ぎにくくなるのではないかと想像され、これは怖い話です。

 法案を受け取った上院は、早速作業を開始し、あまりにも広すぎる内容なので審議ができないとして、まず19の法案に分割して、その一つ一つについて法案をパスさせました。今年の6月までにその作業がほぼ終わり、作業はどんどん進むかに見え一時はすんなり新法案が成立したらどうしようかとハラハラしましたが、その後雲行きが少し変わってきました。

 日本では全ての法案がまず衆議院を通してから参議院で審議され成立します(参議院でもたつくと時間切れで衆議院の決議通り成立します)が、米国議会で新しい法案が成立するためには、下院または上院どちらが先かお構いなく法案を通過させ、それを上院または下院へ送り、同内容で対応する法案が成立すると、両院共通の法案が作文され合同会議で承認されると大統領に送付されます。ここですんなり大統領が署名すると、ようやく新法が成立します。大統領には拒否権があり、ここまで来ても潰れることがあります。(連邦予算に限っては、下院が先に審議することになっています。)

 とまあ蛇足ですが米国の法律制定ルールを述べてきましたが、21世紀治療法案は、この夏から上院で19にばらした法案を下院に対応する一法案にとりまとめる作業が急に停滞しました。

 そうこうするうちにはや10月も終わり、最近のワシントンウォッチャーのブログでは、年内の成立は無いという論調に変わってきて、諦めムードが蔓延しているなと思われる状況になりました。大統領候補は二人ともTPPに反対している中で、年が明けたらどんな事態が起こるか想像もつかないこととなってきました。

 ・・・・と、ここまで書いたところに新しいブログの記事が舞い込んできました。そこにはなんと、「11月に大統領選挙が終わって年明け1月就任までの2ヶ月こそが、この法案を通しFDAに大なたを振るう最大のチャンス」という空恐ろしいことが書かれていました。この2ヶ月という現職大統領の残り期間は、もはや大統領としての威信と指導力を発揮できないいわゆるレームダック(役立たず、死に体)期間であり、この隙に乗じて、いつも規制を振りかざし企業をいじめる監督官庁(FDA)を医薬や医療機器産業界の云うことをきく組織に作り替えようと云うわけです。

 これは日本では荒唐無稽な極めて乱暴な議論と受け止められますが、米国では各省のトップ(大臣)でなくとも部局の長官クラスの権限が極めて高く、トップさえ替えれば思い切った事が可能です。現に大統領選挙直前になってFBIの長官はヒラリー候補に大きな打撃を与える秘密情報e-メール開示というトランプ候補応援にしか見えないことを断行しました。

 そんな実例を目の当たりにすると、万一法案が上下両院合同議会で成立したなら、オバマ大統領も拒否権を発動する力も無く、一挙にFDA長官のクビのすげ替えまで進むという話も全くでたらめとは云えないのかなと、冗談で済まされない気分になってきました。

 杞憂だと笑われる心配事をぐだぐだとやったところで何の意味もありませんが、妥当な安全確認がなされていない医療機器が世の中に出回ることだけは御免被りたいなと思います。  今日は11月4日。大統領選挙まであと4日となりました。